正直に言って僕は人材、特にデザイナーの育成が苦手です。
以前勤めていた会社でデザイナーが育たない問題が社長の目に留まり、独立直前だった僕に育成の白羽の矢が立ちました。(副業OK、独立OKの会社でした)
一生懸命に後輩デザイナーの育成に力を入れていましたが、結論、上手く育てられませんでした。
技術職なので得意不得意が出やすい面はあると思いますが、しっかりした教育スキームがあればある程度までは成長させてあげられるはずなので、僕の力不足ですね。
反省として、僕がやってきたことや、どんな意図だったかを記事にしてみたいと思いますが、未だ答えが見出せていないこと踏まえてご覧ください。
※ちなみに、採用直後の教育ではなく、採用したデザイナーが時間が経っても育っていない、という背景から僕の教育がスタートしました。
目次
自分と後輩達の違いに課題が多かった
内容より先に、取り組んだ中で感じた課題をまとめてしまいたいと思います。
特に目立っていたのは僕と後輩達の様々な違いでした。
スタート地点の違い
人に物を教える時、自分がどうやって学んできたかを振り返って考えると思っています。
僕もそうでした。
しかし、自分の成長過程を振り返った時、後輩と自分ではスタート地点(育成を始める時)までの経験が異なっていたので、何をどこから教えればいいのか判断が難しかったのを覚えています。
というのも僕の場合、色彩学や商業制作など、デザインに関するスキルや知識は大学時代に学び、現場で使うノウハウや技術は全て職場の仕事から見て盗んだり、帰宅後の自主制作で学んだという経緯があります。
まあ新人に教える時間の無い、零細企業あるあるかもしれません。
一方で後輩達は、その会社がデザイナーデビューというような、本当にゼロベースで就職してきた人たちです。
先輩が適当に振った簡単な業務で覚えられる範囲の技術だけでこなしていたので、基礎が無いけど中途半端に覚えてしまっている。という人が殆どでした。
教育スキームが無いのに未経験取るなよ!というのはそもそも論なので置いておくとして、このスタート地点の違いが始めの大きな課題になりました。
学習意識の違い
次にぶつかったのが、後輩達と僕の学習意識の違いでした。
僕は先程触れたように、基礎は大学で、実践技術は現場や独学で学んできました。
しかし、後輩達は業務内での指示が学習の全てで、文字通り仕事=デザイナーで完結していたように見えました。
技術職なので、業務内外に囚われず自主的な学習が必要というのが僕の見解ですが、Adobeソフトも入社するまで知らなかったような人たちなので、まず自主勉強の仕方も、必要性も分からなかったのだと思います。
後輩達も、決してやる気がない訳ではありません。
ただこの学習意識、強い表現をすれば成長意欲の違いも、教育をする上で頭を悩ませる原因でした。
定例の勉強会を開始してみた
ようやく取り組んだ内容に入ります。
当時、教育対象の後輩デザイナーは数名いましたが、複数のプロジェクトに分散配置されていたので、僕自身が制作を行いながら全員の成長を促すことは非現実的でした。
そこで社長に直談判し、週に一度業務後に対象の後輩を集め、勉強会を開かせてもらうようになりました。
※別に勉強会なら許可もいらないと思いますが、意欲的に参加してもらいたかったので、残業扱いでの勉強会開催として交渉しました。
その勉強会では次のようなものを上から順に行なっていきました。
- 立方体ノイローゼ※後述します
- 同じテーマを与えて、同時にみんなでバナーデザイン
- 各自が自身のロゴ制作
- 他社デザインをコピー再現
- 作ったロゴを使ってポートフォリオサイト制作
- 作ったロゴやURLを使って名刺制作、発注まで。
- 作ったポートフォリオサイトにwordpressいれてブログ更新
- 以降は自分で1ヶ月後の達成目標をきめ、スケジュールを作成、実行。
内容は基礎の基礎から色々リストアップしたのですが、会社の業務に活きる部分が育たないと勉強会自体が継続できないと考えて業務で使うツールや知識が学べるようなものを中心に選びました。
課題の章で記載した通り、僕の成長過程が項目選びの参考にならなかったので、結局調べたデザイナー育成論などを参考にしています。
立方体ノイローゼ
最初の立方体ノイローゼという謎ワードですが、これは僕が大学時代に出されていた課題です。
a4サイズにが30個ほどマスが掲載されたプリントを渡し、そのマス毎に立方体に見えればどんな表現でもOKという条件でひたすら立方体を手で描かせる、いわゆる発想訓練みたいなものです。
在学中は10枚とか描かされていましたが、時間のない社会人なのでひとまず週1-2枚の課題として2-3週行なっていました。
この勉強会では唯一の基礎訓練で、正直省こうかと思ったのですが、遊びっぽい雰囲気もあり掴みとして入れ、参加者にも好評ではあったと思います。
同じテーマを与えて、同時にみんなでバナーデザイン
これは上手くいった取組みだったと思います。
勉強会は大体2時間くらいでしたが、まず僕から「こんな会社がこんな感じのキャンペーンをやります。バナーではこんな情報を掲載したいです。」のようなテーマを渡します。
30分で各自、人の制作を見ないようにしながらバナーを制作、途中でも時間が来たらストップしてみんなで講評。その後また30分で再作成、講評。を繰り返しました。
講評では僕ではなく参加者全員が1人の作品にコメントする形式を全員分行いました。
人の意見や考え方を参考にしながら即時に自分の制作に反映できるので、違うテイストであっても繰り返す度、確実にクオリティが上がっていました。
各自が自身のロゴ制作
後輩の中にも独立を目指したいという人もいましたが、殆どは職業デザイナーと言った風だったので、ツクルことをより好きになってもらえるよう、自分自身のロゴマークをデザインしてもらいました。
ロゴ制作の基本はその対象の名前や特徴、想いを形にすることですが、自分自身が対象ということもあり、ここは理解してもらえたと思います。
他社デザインをコピー再現
初心者の練習として一般的な、他サイトデザインを、Photoshop上で再現するという試みも行いました。
しかし、後輩達にとって難易度設定が高すぎたのか、トップページのコピー再現だけでも2-3週間要してしまいました。
ひとまず次の項目、ポートフォリオサイト制作への導入という役割で行なっていたので、トップ以外の2-3ページは各自が自主制作としてやってみるように伝え、勉強会としてはトップページで完了としました。
作ったロゴを使ってポートフォリオサイト制作
参加していた後輩は皆自分のブログやサイトを作っていなかったので、作ったロゴを使ってポートフォリオサイトを制作してもらいました。
特に駆け出しデザイナーであれば、技術やデザインを試す環境としても自分のサイトを持つことは重要です。
業務を部分でしか対応していない後輩達は1からサイトを作ったりCMSを構築したことが無い人が多かったので、まず1からサイト構築のステップを学んでもらうために行いました。
ホームページにも色々ある中でポートフォリオサイトを選んだのは、ロゴ同様自分が対象なことの他、ブログ付きポートフォリオサイトにすれば、ブログとサイト制作の違いや注意点を両方経験できることが理由です。
ドメインやサーバの契約から各自で選んで契約してもらったので、独立希望の後輩は喜んでいました。
しかし非常に意外だったのが、サイト制作は参加者によってやる気に大分差があるようで、投げやりなデザインになってしまう人が出てきました。
僕はグラフィックデザイナーになりたくてデザインを始めたので、最初はWEBデザインに抵抗がありました。
ただ後輩達は更地からWEBデザイナーになりたくて入社してきていたので、興味と学びが一致すると思っていました。
これは予測ですが、ロゴと違いサイト制作は要素が多く誤魔化しが効きにくいので、実力が見えやすいです。
興味が薄かった人たちは、やりたいことと実力の差にやる気が逸れてしまったのかもしれません。
作ったロゴやURLを使って名刺制作、発注まで。
ポジティブな空気感を維持したかったので、一旦小休止として、ここまでに作ったロゴやサイトURLを掲載した各自の名刺デザインをしてもらいました。
実際に友人に配ったりできれば、それが成長モチベーションにもなると考えて、デザインデータの作成だけではなく、僕の持っていた紙見本や色見本で紙や印刷、加工を選ぶところから開始。
やはり自分のデザインが触れるモノになることはウケも良く、参加者の意欲も上げることが出来たと思います。
作ったポートフォリオサイトにwordpressいれてブログ更新
勉強会としての活気も戻り、静的なコーディングまでだったポートフォリオサイトにブログとしてwordpressを追加してもらう作業に入りました。
当時社内ではmovabletypeをCMSとして採用しており、wordpressは導入検討段階で、phpに抵抗が無い人はいませんでした。
そのため、後輩達にとっては技術的なハードルも高く、結局このステップに入ってモチベーションが下がる参加者が多発してしまいました。
ここまで3-4ヶ月程度はかかっていたと思いますが、正直現場で通用するレベルになってもらうにはこのステップを乗り越えてもらうしかないので、分からない部分は納得してもらえるようになるまで、何度も説明しながら進めました。
強引ながらも、一応全員がブログを追加できたので、今度はSEOの練習として、これまでに自分達が学習してきたことや、雑記を更新してもらうことに。
SEOの勉強と言っても、統計データを数字として取ってから改善していく方が分かりやすいと思い、まずは難しいことを考えずに更新を続けてもらうように指示しました。
以降は自分で1ヶ月後の達成目標をきめ、スケジュールを作成、実行。
その後は各自で来月の目標を立ててもらい、その実現に向けたスケジュールも自身で組んでいくようにしました。
実はこれは青山大学の陸上部顧問の方がやっている教育方法で、この勉強会での目標はスキルの習得であったり、制作物の完成であったり、各自が自分の目指したい方向に合わせて決めました。
しかし、これが中々うまくいかず、当日中にできることが来月の目標になっていたり、自分で組んだスケジュールを一度も守れなかったりと、主催側としてはあまり効果を体感できませんでした。
開始から半年、無念のリタイア(僕が)
掲載してきた取り組みをひと通り終えたのは、開始から半年ほど経った時期だと思います。
この半年の間で僕は既に退社していましたが、勉強会だけは出社(?)し、継続して行っていました。
WEB制作で役立つであろう基礎はひと通り教えたつもりだったのですが、最終的に後輩達の成長度を測るために、一連の内容を再確認する月を設け、これが僕にとって一番つらい時期になりました。
参加者の殆どが教えたことの7割以上を忘れているという衝撃の実態が分かり、その理由は勉強会以外で自主制作をしていなかったので、技術や知識定着しなかった。という点にありました。
そこで僕の心が折れてしまい、僕から社長に勉強会の終了を進言し、目立った成長成果も挙げられていなかったためもちろん受領され、閉幕となりました。
まとめ
記事内でも触れたように、技術職はプライベートを削ってでも独学を続ける根性が必要という気持ちはあります。
しかし冒頭で記載した通り、ある程度のレベルまでは教育で持ち上げられるはずなので、多くの時間をもらったにも関わらず、成長させてあげられなかったことが悔しいです。
僕自身が根性論で成長してきたからこそ、無意識の内に後輩達も勉強会+aの努力するであろうと、安直に考えすぎていたのかもしれません。
褒めて伸ばしたり、自主制作の大切さを伝えるべく意識していたつもりですが、人材育成の難しさを知る非常に苦い経験となりました。
ここまで読んでいただいた方の中には「意外と上手くいったって書いてない?」と感じる方もいるかもしれません。
たしかに、制作者としてのモチベーション維持や多少の向上は見られたので、取り組みとしてはある程度上手くいった部分と言える部分もあります。
とはいえ、成長を目的とした取り組みとしては目標に遠く及ばなかった。それが全てだと思います。
失敗の原因が特定しきれていない故に、厳しすぎた?優しすぎた?難易度設定?期間設定?と色々考えてしまいますが、今後も人の教育は避けて通れない課題なので、何とか良い方法を見つけられるよう、今後も考え続けていきたいと思います。
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