ライター/エンジニア/デザイナー/マーケターと、最近は色々な職業で独立する人が増えていますね。独立すると社員として働く友人から決まって言われるのが
「カフェとかで仕事できるんでしょ?いいな~」というセリフ。
組織人数が見えにくいからか法人化以降この質問をされることがなくなりましたが、フリーランスの方であれば一度は言われたことがあるんじゃないでしょうか。
おしゃれなカフェでmac触ってる方も多いので、そんなノマドライフに憧れてフリーランスを目指している人もいるのかも。
つい先日もtwitter上でイナフクカズヤさん(@Inafuku_Kazuya)とこんな会話がありました。
カフェでの上手なノマドワークについてはイナフクさんが記事にしてくれるはず!なので、僕はこの会話にあった「NDA」という側面からノマドワークについて考えてみたいと思います。
※今見返すとマウントみたいな返事になっててすみません…
目次
そもそもNDAってどんな契約?
wikipediaではNDAが以下のように説明されています。
秘密保持契約(ひみつほじけいやく、英語: Non-disclosure agreement、略称: NDA)とは、ある取引を行う際などに、人の間(法人や自然人)で締結する、営業秘密や個人情報など業務に関して知った秘密(すでに公開済みのものや独自にないし別ソースから入手されたものなどを除外することが多い。)を第三者(当該取引に関連する関連会社や弁護士、公認会計士などを除外することが多い。)に開示しない(行政庁や裁判所の要求する場合、その他法律上開示義務がある場合などが除外されることが多い。)とする契約。
wikipedia:秘密保持契約
小難しい表現が多いのでわかりにくいですが、要は「仕事を通じて知りえた未公開情報を、お互い第三者に開示しないようにしましょうね」と受発注者間で結ぶ契約です。
ちなみに「機密」保持契約と呼ぶこともあって、個人的にはこちらの方がなじみがあります。
このNDA、大手企業ではどんなに小さな案件でも発注時に書類締結を求められるのですが、(良いか悪いかは別として)中小企業間での小規模取引だとNDAは暗黙の了解として書類契約を結ばないことも多いので、フリーランスになりたての方などは耳慣れないかもしれません。
NDAで決めること
NDAでは以下の項目について内容をまとめるのが一般的です。
- 機密の対象
- 機密保持の期間
- 機密保持を破った場合の対応
「お互いに他言無用」という一言を書類でまとめているだけなので、作業に関する契約書と比較すれば非常にシンプルで、A41枚に収まる程度の記載であることも多いです。
どんな内容が機密情報なのかをどこまで詳細にするかや、契約が終わったあとの効力をどう定義しておくか、辺りが会社によって扱いの異なる部分だと思います。
機密にあたるものの例
「仕事を通じて知り得た未公開情報」であればすべて「機密」ですが、具体例を挙げると以下のようなものがあります。
- 顧客データ
- 未公開商品・サービスに関する情報
- 内部マニュアル
NDAは包括的な内容を対象にする目的で項目表記に含みを持たせる場合もあるのが厄介ですが、どれも流出すれば企業にとって大きな損失を与える情報なのがわかると思います。
顧客データや未公開商品の流出などはたまにニュースになりますが、NDAを結んでいる場合、内部の運用マニュアルなどを公開してしまうことも問題です。
僕の会社はWEB関連なので、まれに他社さんのライティングマニュアルみたいな資料が回ってくることがあるのですが、「これ見せてくれちゃって大丈夫なのか?」と複雑になります。
NDAに違反してしまうと大変
もしNDAに違反してしまえば、契約解消はもちろん、最悪の場合は裁判まで発展し、情報漏洩による損害賠償を求められる可能性もあります。
ただ、以下のように現実的には損害賠償まで行きつく可能性は低いようです。
ここでは、上に述べた「秘密保持義務違反の事実があること」ではなく、「秘密保持義務違反によって生じた損害の金額」を簡単に証明できることが望まれます。
【第2回今日役に立つビジネス法務】NDAの役割とチェックポイント
いざ訴訟になった場合、秘密情報の漏えいによる損害額を証明するのは、実は、非常に困難です(場合によっては不可能なこともあり得ます。)
だからと言って、損害賠償に至る可能性が低くても契約違反に変わりはありません。 特にネットが流通した現在、一度流通してしまった情報を根絶することはほぼ不可能。
僕自身、さすがにNDA違反や損害賠償の経験はないのですが、裁判にまで発展した事例は身近な案件で起きていて、やはり損害賠償にまでは至らなかったそうですが、裁判になった時点で膨大な時間と費用を仕事以外に使わなくてはいけなくなります。
その上、裁判になればその事実が少なからず記録に残るので、事業者として継続していく意味でも、情報管理の責任は非常に重いと考えています。
それのどこがノマドワークに関係あるの?
NDAは大事だけど、確かにここまでの内容ではノマドワークとどう関係するのかがイメージしにくいかもしれません。
そこで少し具体例を交え、ノマドワークでNDA違反になる危険の高いシーンを挙げて考えてみます。
多数の人が集まる場所で作業をする時
ノマドワークといえど、パソコンを広げる以上テーブルや電源が用意された施設や場所が必要なので、コワーキングスペースやカフェなど人が集まる空間で作業することになりますよね。
多数の人が行きかう空間であれば、当然作業中のPC画面を人に見られてしまう可能性もあります。実際に人が作業しているPC画面を思わず見てしまった経験がある方もいるのではないでしょうか。
しかし、画面を見るのが一瞬でも、それで機密情報が第三者に漏れてしまえば、故意でなくてもNDA違反となってしまいます。
フリーランス仲間と一緒に仕事をしている時
フリーランスの方だと、コワーキングスペースに通って作業をしている方も多いと思います。
僕も以前フリーエンジニアの友人と一緒によく通っていましたが、同じフリーランス同士が集う場所なので、行き詰った時に質問できたり、相談できたりして、とても楽しい空間ですよね。
ただ、この場合も画面を見られてしまうリスクがあり、加えて質問や相談を通して自分の案件詳細を話してしまうことも、NDA違反になってしまいます。
詳細を伝えずに相談するのも難しいとは思いますが、前述のように万が一情報の流出がばれてしまえば契約解消はもちろん、最悪の場合は裁判沙汰。
そうなったらせっかくのフリーランス仲間も騒動に巻き込んでしまうことになるので、コワーキングスペースで作業をする場合は作業内容や情報の扱いに十分注意しましょう。
フリーランスが機密保持のために注意していおいた方がいいこと
ここからはフリーランスがNDAについて注意しておくと良いポイントを紹介します。
NDA締結時に注意すべきこと
もしNDA締結を求められる時は、
- 相互に責任を負う契約を結ぶこと
- 情報公開の範囲・用途を定めておくこと
- 有効期間を明確に記載しておくこと
に注意しましょう。
相互に責任を負う契約を結ぶこと
NDAの記載文面を発注者側で用意する際、時折ジャイアニズム満載な「お前だけが守るんだぞ」みたいな、いわゆる片務契約として締結しようとしてくる場合があるので気を付けてください。
フリーランスは契約関係に疎く、失注する恐怖から細かく口出しをしない方が多いので足元を見ているのかもしれませんが、情報を流出させることで損害を被る可能性があるのは、受注者も変わりません。
というのも、企業側の担当者でもNDAを巻いておきながら自分たちは結構ルーズな情報管理をしている場合があるので、本当に裁判まで起こすかは別にして、お互いの責任を平等にしておくと、いざと言う時、対等に話をすることができるようになります。
情報公開の範囲・用途を定めておくこと
例えば大きなプロジェクトを遂行するにあたって、他のフリーランスを巻き込みながら制作を進めることもありますよね。
そんな時はあらかじめ、「外注者に対して業務遂行に必要な情報を開示する」ことを機密保持の条件から外すような記載をしておきましょう。
あくまでNDAは第三者に情報が流出することを防ぐことが目的の契約なので、業務遂行にのみ必要な情報開示なのであれば、この記載が問題になることは殆どありません。
有効期間を明確に記載しておくこと
通常は有効期間が明記されている(自動更新の実質無期限みたいなものが多いですが…)ものですが、有効期間の記載がないと「書いてないから実質無期限だろ」「依頼に対しての契約なんだからプロジェクト完了まででしょ」みたいな水掛け論になってしまう恐れが出てきます。
例えば依頼そのものに携わったこと自体が機密なる場合もあるので、いつから実績として公開してもよいのか、またはしてはいけないのか、などで悩まないためにもまとめておくとより安全です。
ノマドワークをするときに注意すべきこと
次にノマドワークをする際の注意点ですが、
- 案件のための調査・準備
- 検証のためのテスト制作
- 自分のコンテンツ制作
- もくもく勉強会
などに作業の内容を留めておくと良いと思います。
NDA=ノマド禁止、ではありません。
大事なのは「ノマドワーク自体を活動のベースにするのではなく、情報漏洩の心配が無い作業をノマドで行う」という考え方。
案件事態の実作業は事務所などで行い、他の人に見られても問題ない作業をノマドで行うということですね。
案件のための調査・準備
例えば競合調査であったり、キーワードの選定であったり。どんな仕事でも実作業の前に調査や準備の時間があると思います。
こうした作業であれば、クライアントや案件自体とある程度切り離して作業をすることができるので、カフェやコワーキングスペースなどで作業をしたり、フリーランス仲間と相談・雑談をしながら行っても問題はないでしょう。
検証のためのテスト制作
制作・開発職の人であれば、案件の追加仕様が実現できるのかを調査するために、とりあえず組んでみる。というステップが発生すると思います。
しかし実案件のデータを使ってしまえば前述してきたように情報漏洩のリスクが出てきてしまうので、ダミーデータを使った、あくまで機能をチェックするだけの作業にしぼって行えば、NDA違反の危険はなくなります。
自分のコンテンツ制作
ライターであればブログ、エンジニアやデザイナーであればポートフォリオサイトなど、自分自身のコンテンツを触る分には当然NDAなど関係ありません。
「事務所で作業、ノマドで自作」のように切り分けると気晴らしにもなっていいですよね。何を隠そうこの記事も今、大好きコメダ珈琲で書いています。
もくもく勉強会
コワーキングスペースではお馴染みの「もくもく勉強会」ももちろんOK。
自分自身のスキルアップに使う時間なので、人目を気にせず思う存分作業に没頭しましょう。
僕も過去に何度か参加したことがありますが、技術学習はもちろん、同じ業界でも結構知らないことがあったり、人によっていろんなやり方をしていたりと学びが多くて良い経験ができました。
結構ここで知り合うフリーランスの方はお互いの守備範囲やスキルレベルも分かった上でお付き合いできるので、一緒に仕事をすることも出てきてメリットが多いです。
まとめ:経済産業省公開のNDAサンプル付
ここまで、フリーランスのNDAとの向き合い方、ノマドワークをするときの注意点をまとめてみました。
「NDA テンプレート」などで検索すれば、膨大なサンプルが手に入ります。
初めて結ぶ契約書ではこうしたひな形を使っている人も多いと思いますが、「ひな形だから安心」と妄信せず【NDA締結時に注意すべきこと】で記載したような内容が網羅されているかチェックしてみましょう。
と、ここで少しご紹介したいのが、経済産業省が発行しているNDAの参考資料。
正直「中小企業やフリーランスの取引でこんなこと要求できるか?」という内容も多いんですが、「退職者の情報管理責任はどうなるのか」など、国レベルで見たときに情報管理のどんなポイントが問題になっているのかを知ることができます。
ランサーズ/クラウドワークスなどのクラウドソーシングを経由してお仕事をする場合は、当事者間で契約書をやりとりすることが無いので、情報管理を意識せずにフリーランスとして活動している人もいるかもしれません。
しかし契約書の有無に限らず、相手の不利益になる情報なら当然無期限で控えておくべきもの。「会社」という後ろ盾のないフリーランスだからこそ、クライアントと信頼関係をもって継続していけるよう、働き方にも気を配ってみてもらえれば嬉しいです。
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